われ思ふ、末世の邪宗、切支丹でうすの魔法。
黒船の加比丹を、紅毛の不可思議國を、
色赤きびいどろを、匂鋭きあんじやべいいる、
南蛮の桟留縞を、はた、阿剌吉、珍酡の酒を。
北原白秋「邪宗門秘曲」より
かつて国立にあった「邪宗門」という喫茶店の名物オーナーだった名和孝年さんが亡くなってから、2018年で10年になります。
「みんなを楽しませたいと思って」邪宗門を開いた名和さん
元船乗りで、喫茶店のマスター兼マジシャンだった名和さん。
川口葉子さんの著作「東京カフェマニア」で名和さんのことを知りました。
カフェブームのさなかにある2001年に出版された本ですが、私が読んだのは随分あと。
川口さんが散歩のついでにたまたま立ち寄った邪宗門で、名和さんに手品を披露してもらい、手品をはじめたきっかけを尋ねると思いがけない言葉が返ってきました。
海軍にいたこと。名和さんが上陸している間に戦艦が攻撃を受け、大勢の仲間を失ったこと。何度もそういう偶然が続いたため、終戦後「みんなを喜ばせようと思って」邪宗門を開いたこと。
おぼつかない手で何度も繰り返し手品を見せてくれる名和さんを見て泣いてしまったことが綴られています。
「邪宗門は日本最後のシャンソン喫茶のつもり」という名和さんの貴重な言葉が掲載されているので、興味のある方はぜひご一読ください。
全国に広がった「邪宗門」
カリスマ門主の名和さんに憧れて、全国各地に同名の邪宗門という喫茶店が広がりました。
※「邪宗門」では店主ではなく、門主という言葉を使うそう
2023年1月現在営業中なのは、荻窪、世田谷、下田(静岡)、石打(新潟)、高岡(富山)の6店舗。
屋号は同じだけど、グループ店としての決まりはなし。
ただ邪宗門の門主になるには、手品ができないといけないという掟があります。
「47都道府県の純喫茶」には、2019年に閉店した小田原邪宗門を含めた6店舗全ての邪宗門が紹介されています。
名和さんに出会ったことではじまったそれぞれの「邪宗門物語」が語られていて、生前にお会いしたかったと悔やむばかり。
2012年、門主が亡くなったことにより歴史に幕を閉じた聖蹟桜ヶ丘の邪宗門。
「喫茶店をやりたいというより邪宗門をやりたい」という門主の貴重なインタビューが「東京ノスタルジック喫茶店2」に残っています。
「47都道府県の純喫茶」富山代表の「高岡邪宗門」へ
「47都道府県の純喫茶」で富山県代表として紹介されていた高岡市にある「高岡邪宗門」を目指すため、はじめて富山に足を踏み入れたのは2015年10月。
ママに「47都道府県の純喫茶」の話をすると、私と同じようにこの本を参考にして各地の喫茶店巡りをしている人がいる聞き、仰天。
どこかで会いそうなのに、いまだに会いません。
トランプ柄のマッチ箱を使った手品を見せてもらったり、“名和ワールド”の片鱗であるゆるりとした雰囲気を味わいました。
高岡邪宗門・店舗情報
【最寄駅】JR高岡駅より徒歩7分
【住所】富山県高岡市三番町50
【営業時間】8時~18時半
【定休日】不定休
【新潟・石打邪宗門】教会を思わせる外観が目印のクラシカルなカフェ
【珈琲駅ブルートレイン】富山代表の純喫茶は鉄道ファン以外にも人気
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